黄金の瓜
 
 
 むかし、佐渡島のある村に、丸木をくりぬいてつくった舟が流れつきました。中にはうつくしい娘がいて、今にも死にそうによわっていました。

 おじいさんとおばあさんは、娘を家につれてかえり、まるで自分の娘のように親身になってかいほうしてやりました。やがて娘は元気をとりもどし、自分のみのうえを語りはじめました。

「わたしは、さる国の殿さまにつかえていたものですが、ささいなことで罪をとわれ、島流しになったのでございます。行くあてもありません。どうかここにおいていただけませぬか」

 おじいさんとおばあさんには子供がありませんでした。そのような気の毒な身の上ならば、これからは自分たちの子になってほしいと、娘を家においてやることにしました。

 ところで、この娘は、島流しになる前から身ごもっていて、やがて月が満ちると元気な男の子を生みおとしました。

 男の子はこれといって病気をすることもなく成長し、七つになりました。ある日、しんみょうな顔をして、
「おっかあ、どうしておれには父親がないんだ」
と、いいました。

 すると、母親はかなしそうな顔をしていいました。
「父親はいますよ。大阪のお城の殿さまがお前の父上です。父上には十二人のお后がいて、わたしはその中でいちばん若く、殿さまに愛されていましたから、ほかのお后がねたんで、わたしの布団のなかにこっそり萱の実をしいておいたのです。殿さまが、わたしのところへ来られると、萱の実がつぶれてぴちっとなりました。おつきの者たちが、殿さまの前で屁をひるなんて無礼だといってさわぎたてるので、殿さまはわたしを島流しにしたのです」

 それからというもの、息子は自分を大阪へやってください、と何度もせがみました。母親も、息子の熱心さにまけて、一朱金を一枚わたして旅に出してやりました。

 大阪につくと、息子は一朱金を石でたたいて細かくすると、城のまわりで大声をはりあげて、
「世にもめずらしい金の瓜がなる種はいらんかね」
と、いいました。

 それが殿さまの耳にもはいり、息子は城にまねかれて、殿さまに会うことになりました。

 殿さまは、種をごらんになって、
「これをまけば、黄金の瓜がなるのかね」
と、おたずねになると、息子がいうことには
「ただまくだけではいけません。生まれてからこのかた屁をしたことのない者が種をまかねばそだちませぬ」

 殿さまは、屁をこかぬ者などあるわけがないと、怒りだしましたが、男の子は一歩もひかず、
「では、わたしの母親は、こいてもいない屁のために、どうして島流しになったのでございますか」
と、いいました。

 それで殿さまも、この少年が自分の息子だと気がついて、ささいなことで后を罰してしまったことを恥ました。

 男の子は殿さまの世継ぎとしてお城にむかえられ、母親もよびもどされ、しあわせにくらしたということです。
 

◆こぼれ話◆

 丸木舟で流されてくる貴人の話は多い。竹取物語でかくや姫が竹からうまれるのも、丸木舟の変形と思える。

 そういえば、丸木舟に乗ってくる貴人が最後にお蚕さんになる話がある。身分の高い人が何かの罪で流罪になって再びかえり咲く様子は、芋虫→蛹(繭)→成虫と変化する蛾の一生と重なって見えるのだろうか。一発逆転の魔法には「繭」が必要なのかもしれない。それが丸木舟であり、かぐや姫の竹である。

 
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