箱根山の天邪鬼
 

 むかし、箱根の山にたいそう力のある鬼がいた。
 この鬼は、箱根の山が美しいのを自慢にしていたから、人間が箱根に尻をむけて富士山を拝むのを見て、ひどく腹をたてておった。

「富士山なんぞ、ちいと高いだけのつまらん山じゃ。このわしがちいと低くしてやろうか」

 真夜中になると、鬼は大きな籠を背負って富士山へ向かった。

 そして、大きな岩を籠に入れて海へ運び、沖にむかってぽいぽいと投げはじめた。

 この時にできたのが伊豆七島で、投げそこねて近くに落ちたのが熱海の初島だってことだ。

 ある夜、とびきりでっかい岩を肩にかついで運ぼうとしたが、あんまりでかくて重たいもんだから、海にたどりつく前に夜がしらみはじめた。

 鬼は、朝になると力をなくしてしまうから、あわてて岩をほうりだして逃げてしまった。

 この時の岩が、箱根の双子山だということだ。
 

 
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