天竺へ行った若者
 
 
 貧乏な若者がおったとよ。
 弁当を持って山へ柴刈りに行くと、白いひげの年寄りが来て、若者の弁当を食ってしまったんだと。若者は昼飯がなくてこまったが、それでも文句をいわなかったと。

 次の日、若者が山へゆくと、昨日の年寄りが待っていて、
「昨日は弁当を食わせてくれてありがとうよ。お礼にいいことを教えてやろう。天竺の寺へお参りに行くのじゃ。道中人にあったら、話をよく聞いてやるんだぞ」
と言って、姿を消してしまったとさ。

 若者はすぐにでも旅に出たかったけど、貧乏で路銀がない。
 長者さんをたずねて
「おら、これから天竺の寺さお参りにゆくんだども、ちいとお金を用立ててくれんかのう」
と頼んだんだと。
 すると、長者さんは喜んで
「なら、わしの頼みを聞いてけろ。娘が長わずらいで医者にみせても良くならんのじゃ。天竺のお寺で治しかたを聞いてくれんかのう」
と、言うんだって。
 若者はそんなことならお安いご用と引き受けると、長者さんから借りたお金で旅仕度をして旅に出たんだと。

 ずんずん歩いてゆくと、途中に立派なお屋敷があったので、宿を借りることにしたんだと。
 天竺へ行くとちゅうだと言うと、屋敷の主人が
「実は、この屋敷の庭に木蓮の木があるんじゃが、どうしたことか花が咲かなくなってのう。天竺のお寺でわけを聞いてきてくれんか」
というので、若者はお安いご用と引き受けた。

 お屋敷を出て、ずんずん歩いてゆくと、途中に大きな川があった。
 ここを渡らないと天竺には行かれない。
 若者がこまっていると、白い髪のばあさんが現れて、
「川を渡してやるからわしのたのみを聞いてけろ」
と、いうんだと。
「わしは、山に千年、海に千年住んだ者だが、次は天にのぼりたい。天竺へ行くなら、天にのぼる方法を聞いてきてくれんかのう」
 若者がお安いご用と言うと、ばあさんが川を渡してくれた。

 そうして、やっと天竺の寺につくと、若者が弁当をやった白いひげの年寄りが出むかえてくれたんだと。はあ、このじいさんは天竺の神さまだったかと、若者はもうびっくりして口もきけん。
 すると神さまは、
「よく来たのう。途中で頼まれたことを話してみるのじゃ」
と、若者の話を聞いてくれたんだと。

 話をすっかり聞くと、神さまは
「まず、天にのぼりたいばあさんだが、懐に真珠の玉を二個いれておるのがいかんのじゃ。よくばらずに一個を誰かにくれてやれば天にのぼれる。
 次に木蓮の木じゃが、根元に大きな瓶が埋めてあるのが根をいためておるのじゃ。掘り出してやればまた花がさくじゃろう。
 最後に長者の娘だが、あれは恋の病というやつじゃ。屋敷中の男に杯を持たせ、娘には酒のはいった徳利をもたせるのじゃ。娘が酒をついだ男を婿にすれば病気がなおる」
と、教えてくれたんだと。

 若者は来た道を引き返し、ばあさんのところへやってくると、
「そういうわけだから、真珠の玉を誰かにくれてやばいいよ」
と教えてやった。
「なら、この玉はお前にやる」
 ばあさんは、大きな真珠の玉を若者にくれてやった。
 すると、川に水柱がたって、天にとどいたので、ばあさんは柱をのぼって天まで行ってしまった。

 次に木蓮の屋敷までくると、
「そういうわけだから、瓶を掘り出すといいよ」
と教えてやった。
 若者も手伝って掘りかえしてみると、大きな瓶がふたっつも埋まっていたんだと。中には大判小判がぎっしり詰まっている。
 根をいためていた瓶がなくなって、よっぽど嬉しかったのか、木蓮の木にはたちまち白いつぼみがついて、見る見るうちに花が咲き始めた。
「あんたのおかげで花が咲いたから、こっちの瓶はあんたにやろう」
といって、屋敷の主人は大判小判の詰まった瓶をひとつ若者にくれた。

 重たい瓶を背負って村に帰ると、長者さんの家に借りたお金を返しに行って、
「そういうわけだから、杯と酒を用意するといいよ」
と教えてやった。
 長者さんは家中の男に杯をもたせて、娘には酒のはいった徳利をもたせてみたが、娘は誰にも酒をつがないんだと。
「一体どうしたことじゃ…おお、そうじゃった。お前を忘れておったのう」
と、長者さんは若者にも杯を持たせてみたんだと。
 すると、娘はにっこり笑って、若者に酒をついでやったんだと。娘の恋しい相手は若者だったんじゃのう。

 こうして、若者は長者さんの婿になり、長者さんの娘はうそのように病気がよくなって、いつまでも幸せに暮らしたということじゃ。
 

◆こぼれ話◆

 イスラエルの昔話にこれとそっくりな話がある。

 ある王様が大事な娘が黒人の召使いと結婚する夢を見る。その召使いは忠実でとてもよく仕えてくれるので王様のお気に入りだったが、娘と黒人を結婚させることなどありえないことだった。そこで、王様は召使いを呼んで「お前には暇をやるから、人間の運命を変える方法を探してくるのだ。見つかったらもどってこい」と言って城から出してしまう。召使いは出会った者から願いを聞きながら旅をして、最後には黒い皮膚を白く変える水をみつけて城にもどり、王様の娘と結婚する。
 

 
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