蜂出世
 
 
 ある家の娘は年ごろになってもふさわしい男がいなかったので婿を求める札を書いて家の前に立てた。

 すると、ぜひ娘さんの婿にと申し出る男がいたので、それならまずはお堂の掃除でもしてもらおうかと、にぎりめしを四つ持たせてお堂にやるが、それっきり男はもどってこなかった。

 また別の男がやってきて婿にしてほしいというので、にぎりめしを四つ持たせてお堂にやったが、この男も帰ってこなかった。

 三人目にやってきた男もほかの男と同じようににぎりめしを四つ持ってお堂に向かった。この男が掃除をしていると、お堂の奥から黒い霧のようなものがやってくる。

 そこで男はにぎりめしを半分ちぎって霧に投げてやった。また霧がでてくると、残りの半分を投げてやった。そうやって、霧がくるたびににぎりめしを投げているうちにお堂の掃除はすっかり終わった。

 男が無事にもどってきたので、次は打ち藁を一本持って町へ行き、千円で売ってくるようにといいつけた。

 男が歩いてゆくと、ホウノキの葉を紐でくくりもせずに売り歩く者がやってきた。男はホウ葉売りに藁を与えて
「これでくくっておけば歩きやすいでしょう」
と、教えてやった。するとホウ葉売りは喜んで、売り物の葉を二枚男に手渡した。

 ホウ葉を二枚持って歩いていると、向こうから三年味噌売りがやってきた。見ると味噌の桶には蓋もせずに歩いている。男は味噌売りにホウ葉を与えて、
「これで蓋をすれば埃もつかず、香りもよくなるでしょう」
と、教えてやった。すると三年味噌売りは喜んで、売り物の味噌を丸めて男に手渡した。

 男が味噌の玉を持って歩いていると、ある立派な家の主が病気で困っているのに行き会った。医者がいうには、主の病気は三年味噌を食べなければ治らないというのだった。男が家の主に三年味噌を差し出すと、主は味噌を食べてたちまち病気がなおってしまった。

 このお礼に何かやろうというのだが、男はほしいものなどないからとことわった。しかし、それでは気がすまぬと、家の主は味噌の代金として千円払ってやった(この頃の千円はかなりの大金)。

 こうして男が打ち藁を千円にかえて屋敷にもどってきたので、今度は屋敷の裏の竹林に竹が何本あるか数えてみろと申しつけた。

 男が竹林に行ってみると、あまりにも広くて数など数えられない。そこへスガリ(蜂)がやってきて男の耳元で「一万三千三百三十三本ぶーん」と言って飛び去った。男が屋敷の者にそう答えると、みごとに正解であった。

 そこで今度は、この家には三人の娘がいるが、どの娘が男の妻になる者かあててみよと申しつけた。

 男がとほうにくれていると、またスガリがやってきて「ナカソダブンブン」と言って飛び去った。男が
「中のがそうだ」
と答えると、みごとに正解であった。

 こうしてめでたく男はこの家の婿になり、幸せに暮らしたということだ。
 

◆こぼれ話◆
 ここに紹介したのは遠野の昔話だが、似たような話は各地にあるらしい。山形の昔話では、子供にいじめられた蜂を助けた男が、その蜂に教えられて杉の木の数を言い当てる。

 韓国にも同じような話があって、洪水伝説と関係している。

 大きな桂の木と天女のあいだに生まれた子供は、大洪水の時にお父さんである桂の木に乗って浮かんでいたので助かった。そこへ蟻(あり)と蚊(か)が流されて来たので木につかまらせてやり、やがて島にたどり着く。

 島には洪水からのがれた母娘がいるが「粟粒と砂粒を一夜でより分けることができたら娘を嫁にやろう」と言われる。そこへ蟻がやってきて、助けてもらった恩返しと、砂の仲から粟粒だけを拾い集めてくれる。

 次に母親は月のない闇夜に娘を屋敷に隠し「娘がどの部屋にいるか一度で当てられたら嫁にやろう」という。そこへ蚊が飛んできて「東の部屋だよブンブン」と耳元でささやいたので、桂の子は娘と結婚することができた。
 

 
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