本殺しと半殺し
 
 
 江戸から来たお侍が山の中で道に迷いました。やっとみつけた家に泊めてもらうと、夜中に老夫婦が何か話をしています。

「明日は本殺しがいいかのう、お手討ちがいいかのう」
「江戸の人だから半殺しがよかんべ」

 本殺しに半殺し、お手討ちとはまた物騒な話です。さては鬼の住み処だったのかと、お侍はぶるぶるふるえながら朝を迎えました。

 次の朝、お侍が起きてみると老婆がにこにこしながら言いました。「さあ半殺しを召し上がれ」出てきたのは美味しそうなボタモチでした。

 ボタモチは小豆を半分殺した粒餡の半殺し、おはぎは漉し餡なので本殺し。手討ちは手打ちソバのことだと聞いて、お侍さんはやっと安心して大笑いしたそうです。

本殺しと半殺し
 
 
◆こぼれ話◆
 ご飯を潰してまるめたものに小豆のあんをつけたのをボタモチ、またはおはぎという。あんこをつけるのであんころ餅とも言う。

 ボタモチとおはぎの違いには諸説あって、

春の彼岸 ボタモチ(ボタンの花の季節だから)
秋の彼岸 おはぎ(ハギの花の季節だから)

春の彼岸 ボタモチ、または本殺し(こしあんを使うから)
秋の彼岸 おはぎ、または半殺し(粒あんを使い、粒がハギの花に見えるから)
 読者の方が教えてくれたことによると、小豆は秋にとれるものなので、皮のやわらかい秋には粒あんで、その際、粒がハギの花に見えるから呼び名はおはぎ。春は収穫から時間がたって皮がかたくなっているのでこしあんで食べるのではないかと。

 また、小豆ではなく米に注目した呼び方もある。

米の形が残らないように餅のように潰したのを本殺し、または皆殺し
米の形が残るように荒く潰したのを半殺し

ボタモチ、牡丹餅、ぼた餅、おはぎ、お萩、御萩、オハギ
 

 また、これまた読者の方に教えてもらったところによると、広島では日蓮上人の話として同じような話があるそうだ。家の者が「今夜は棒打ちにして、明日の朝は半殺しにしようか」と言うのを聞いて逃げ出すも、あとで「棒打ちは手打ちソバ、半殺しはボタモチ、皆殺しはお餅のことだと聞いて「それは残念なことをした」と。
 

 
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