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羊のはじまり(アフリカ・リビア人)

 世界のいっとう最初にいたのは魔法を使う女の人でした。この人が人間や家畜をみんな創ったので、人々は最初のお母さんと呼んで慕っていました。

 ある時、最初のお母さんが粉を練って新しい動物を創りました。形ができると、それを麦のもみがらの中に置いたので、動物の体にはもみがたくさんついて、綿毛になりました。

 最初のお母さんは、動物を全部で四匹創りました。二匹は雌で、二匹は雄でした。動物たちがひとりでに歩き出して、メエメエ鳴き始めると、最初のお母さんはクスクスの粉を蒸して動物たちに食べさせました。

 人間たちは、最初のお母さんが何を創ったのか知りたくて、賢い蟻のところへ行きました。蟻はその生き物が羊という名前で、食べるとどんなに美味しいか、毛をどんなふうにすれば糸になるのか教えてくれました。

 蟻の話をきいているうちに、人間たちは、どうしても羊がほしくなりました。そこで、自分たちが畑をたがやして作った麦をたくさん持って、最初のお母さんに羊と交換してくださいとたのみに行きました。これが物々交換のはじまりだということです。

 羊は、雄と雌がまじわって、子供が生まれ、どんどん数がふえてゆきました。おかげで人間は、美味しい肉をおなかいっぱい食べられるようになりましたし、毛をつむいで糸にして、美しい布を織ることもできるようになりました。

 ところで、羊たちは普通の動物と同じように歳をとれば老いて死んでゆきますが、最初に作られた一匹だけは、いつまでも若いままで死ぬことがありませんでした。そのうち、最初の一匹は高い山のてっぺんへ行ってしまいました。

 そうしてある日、山のむこうからのぼってきた太陽が、羊のあたまにぴたりとくっついて、それからというもの、最初の羊は頭に太陽をのせて、広い空を東から西へと歩いているのです。
 

ぎょうせい『世界の民話・アフリカicon』より
 なんとなくエジプト神話の影響を感じさせる話です。古代エジプトの遺跡からは雄牛が角の間に太陽をはさんでいる像がたくさん出ますし、アメン・ラーといって、羊の角をもつ太陽の神様もいます。
   

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