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玉手箱 名称
 玉手箱
 たまてばこ

所有者
 乙姫
 竜王の娘(乙姫の姉妹?)

効果
 望みの品物を出す
 大きさや形に関係なくなんでも収納できる?

 大事なものを入れておく小さな箱のこと。昔話に登場する場合その箱の内容量は無限大であり「時間」のような形のないものまで収納できる。

 玉手箱が使用されるもっとも有名な例は『浦島太郎』である。太郎は助けた亀に連れられて竜宮城で三日すごして地上にもどってみると三百年たっていた。乙姫様からもらった玉手箱をあけてみると、箱の中から煙が吹き出して、太郎はたちまちお爺さんに。
 この場合、玉手箱に収納されていたのは太郎の時間である。海底の住人と太郎とでは人生のタイムスケールがまったく違っており、幼き人間である太郎を竜宮にとめおくには太郎が経験するはずだった時の流れを封じておく必要があったのだろう。
 その時間はあくまで太郎のものであり、太郎が人として地上にもどるのならば太郎に返さなくてはならないものだったに違いない。けれど、乙姫は太郎が竜宮にもどることを望んでおり「けっして開けてはいけません」と念をおし、時を封じ込めた玉の手箱を手渡すのである。

 『浦島太郎』は玉手箱使用に関するもっとも悲劇的な報告だが、本来の持ち主の手にある時、打出の小槌に匹敵する幸運のアイテムとなる。竜王の娘(乙姫またはその姉妹と考えられる)は、しばしば人間の男と結婚して陸に上がるが、彼女らは嫁入り道具として玉手箱を持参しており、生活が危機に瀕すると箱を開けて中から望みのものを取り出して使う。

 打出の小槌との違いは、小槌が何もないところから望みのものを出すのに対し、玉手箱はあくまで収納するための容器だという点である。小槌は時に人の姿を変えるような願いまで叶えるが、玉手箱はあくまでものを出すことしかできない。箱に入れられるものは形や大きさに制限がなく、馬や侍が何百と出てきて悪い殿さまをやっつけたという記録もある。

 なお、玉手箱が本来の持ち主から他人に譲り渡されたのは『浦島太郎』の例をのぞいて存在しない。太郎の例でも乙姫は箱を開けるなと言っていることから、太郎が無事に竜宮にもどったなら、玉手箱は乙姫の手に返るはずだったのだろう。
 このように玉手箱は人が勝手に使うことのない道具であるから、打出の小槌に見られるようなあやまった使用法による事故はほとんど報告されていない。

 
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