類(るい)  ルイ
類

 獣がいる。そのかたちは狸のようで髦(たれがみ)があり、その名は類。自分ひとりで牝と牡になり自家生殖をする。これを食べれば嫉妬をしなくなる。 (南山経一の巻)--006

絵・文とも『山海経』より

 
 
 狸の如しとはいうものの、『山海経』の挿し絵を見ると、トラジマの獅子のように描かれている。

 日本では狸という文字でイヌ科のタヌキをさすが、中国ではヤマネコ、キツネ、ジャコウネコといった小型〜中型の肉食動物全般を意味するから、ひょっとすると毛色の変わったライオンなども候補に挙がるかも知れない。

 しかし、ライオン(獅子)は、仏典などにもよく登場するメジャーな動物だし、ライオンだとしたらあえて狸にたとえるとは思えない。ライオンなんかより小さな動物だと思う。

 ここでは仮に、イヌ科の動物として話をすすめてみようと思う。類に似たイヌといえば何種類か思い浮かぶが、そのひとつがチャウチャウ犬だ。

 チャウチャウにはトラジマはないが、分厚い毛がたっぷり生えていて獅子のたてがみがあるように見えるし、顔にしわが多くて本当に唐獅子みたいなのだ。

 チャウチャウはチベタンマスチフなど、北方系のイヌを掛け合わせて作られた犬種だそうだが、『山海経』が書かれた時代に作られていたかどうかわからない。

 

チャウチャウチャウチャウ
 渋い獅子面が魅力的な中国犬。肉付きがよく、食用として繁殖されていたこともある。
ペキニーズペキニーズ
 門外不出の高貴な犬だったが、阿片戦争のどさくさでイギリス人が国外に持ち出したことで世界中にひろがった。
 ほかに、ペキニーズのような中国の小型犬も候補にあがりそうだ。ペキニーズは二千年も前から中国の宮廷内で飼われていた愛玩犬で、毛色は何種類かあるようだが、金茶で顔が黒いものがもっとも好まれている。小型犬ながら気位は高く、ふさふさと長くのびる毛が獅子のたてがみのような趣を醸し出していて、「たてがみタヌキ」にふさわしい。

 もっともチャウチャウもペキニーズも、当たり前だが自家生殖などはしない。なぜそう信じられていたのかはわからないが、犬は一度にたくさんの子供を産む上に、たいていは安産で、自家生殖でもしているかのように殖えるという意味なのかもしれない。

 なお、狸=野生猫については、別のページにまとめたので参考にしてほしい。

 
 
☆まめちしき
  類には「髦(たれがみ)」があると書かれているが、これは簡単に言えば「たてがみ」のことだ。ただ、漢和辞典を読むと「鬣(たてがみ)」と書いた時と、生えている場所が少しちがうようだ。
 
たてがみ  顔のまわりに生える毛のことだが、特に首筋や顔の下のほうに生える毛で、あごひげも含まれる。馬やイノシシのたてがみはこっち。ヤギのあごひげもこれ。
たれがみ やはり顔のまわりに生える毛のことだが、主に頭から生えている毛のこと。ライオンのたてがみや、人の髪の毛などはこっち。

 

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