その他の蟲たち

 
 ヒテツ
蜚蛭 蜚蛭がいる。四枚の翼。(大荒北経)
 というのはゴキブリのことだが、飛ぶという文字と発音が同じなので、この場合、飛ぶ蛭(ヒル)という意味だろう。
 しかし、羽が四枚というので蟲の仲間に入れてみた。羽が4枚あるのは昆虫の特徴である。しかも蛭だというのだから、血を吸う虫だろうか?
 昆虫で血を吸うものといえば、蚊・アブ・蚤・シラミ・トコジラミなどがあるが、アブは後翅が退化していて2枚翅のように見える。蚤・シラミトコジラミには翅がない。するとやはりのような気がする。
 しかし、蛭といえばナメクジをごっつくしたようなウネウネした体つき。見た目では蚊とは似ても似つかない。

タイホウ
大蜂 タイホウ、そのかたち蜂のよう。(海内北経)
 ホウは蜂の古字である。『楚辞』に「玄蜂は壷のよう、赤蛾は象のよう」とあり、『山海経』でも朱蛾・大蜂が並んで出てくるところをみると同じものを言っているのかもしれない。

 玄蜂というのは黒い蜂という意味である。壷のようというのは大きさのことだとすればかなり誇張した言い方だが、クマバチの類は蜂のなかでは大型で、体が黒く、腹が太く壷のような形をしている。中国には竹蜂というクマバチの近縁種がおり、昔から漢方薬の材料とされた。


シュガ
朱蛾 朱蛾はそのかたち、蛾のよう。(海内北経)

 郭璞によれば、蛾は大きなアリのことだという。『楚辞』に「赤蛾は象のよう」とあるが、いくらなんでも象ほどもあるアリとはスケールの大きな話だ。
 もっとも、中国には鸞蜂という巨大蜂の伝説がある。重さ十余斤で、この蜂が集める蜜は碧色をしており、食べれば仙人になれるという。ハチとアリは体つきも似ている。朱蛾(赤蛾)は鸞蜂伝説の古い形かもしれない。
 
イサゴムシ
いさごむし (大荒南経)
 『山海経』にはイサゴムシ自体の解説はなく、ワク民と呼ばれる人たちが、これを射て食べるとある。
 イサゴムシとは、トビケラの幼虫のこと。水中で小石をかためた筒状の巣を作って暮らす。砂(いさご)を吐き出して人に当てるともいわれている。
 また、カワゲラやヘビトンボの幼虫も、姿形が似ているのでイサゴムシと同じ仲間のように思われていることがありそうだ。日本では全部ひっくるめてザザ虫ともいい、佃煮などにして食べることがある。ヘビトンボの幼虫は薬として売られることもある。

 食用にするのはいいとして、「射て」取るというのがポイントだろう。イサゴムシは大きいものでも4〜5センチくらいなので、矢で射るほどは大きくない。ひょっとすると、ワク民はイサゴムシを矢で射れるほど小さな人たちだったのだろうか?
 日本で孫太郎虫と呼ばれているヘビトンボの幼虫は、薬として売られるとき串刺しにされることが多い。ワク民がイサゴムシを食材として売るときに串刺しにしていたのだとすれば、小さな弓で串を射て獲るのだと評判になりそうな気がする。

 実のところ、珍獣はイサゴムシの類がいるような場所に住んだことがないので、この手の虫はまるっきり未知の生き物。外国の動物は動物園で見られることもあるけど、イサゴムシはなかなか実物を見る機会がありません。ワク民が弓矢で獲るんだよといわれれば、そのまま信じてしまうくらい、この虫のことはなーーーーんにもしりませんのです。

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