三本足の亀 三本足亀
 水中に三本足の亀が多い。これを食べれば大病にならないし、腫れ物をいやすのにもよい。(中山経七の巻)

 水中に三本足のすっぽんが多く、尾が別れている。これを食べれば蠱や疫病をわずらわない。(中山経十一の巻)

絵・文とも『山海経』より


 
 
 旋亀のページで、亀は性器が隠れて見えないためオスがいないと思われていたと書いたが、もちろん亀にも性器はちゃんとある。それどころかマレーオオスッポンなど、先が五又に分かれた立派な性器を持っている。爬虫類の研究家である高田栄一氏は、マレーオオスッポンの解剖をした時、その性器があまりにも奇異な形をしていたので、最初なんだかわからなかったほどだという。子供の手のひらのような形で、先に爪のような鈎までついていたそうだ。
 三本足というと、足が一本足りないように思えるが、もし「後ろ足」が三本という意味だとしたらどうだろう。亀には性器がないと考えていた古代人が、たまたま亀の性器を目にしたとしたら、甲羅の中に三本目の後足を隠していると考えたかもしれない。
 前足が二本、後足が一本だとすると、アザラシやオットセイなど、鰭脚亜目の動物の特徴でもある。彼らには後ろヒレが二枚あるので正確にいえば後足が一本というわけではないのだが、第一印象としては後足にあたる部分は一本に見えるわけだ。
 それをいったらイルカも前足が二本、後ろ足が一本の生き物だろう。後ろ足にあたる部分は完全に一本にくっついて尾ヒレになっている。中国にイルカがいるのかと言われるかもしれないが、長江にはヨウスコウカワイルカという淡水イルカが今でも棲んでいる。
 もちろん、イルカやアザラシ・オットセイに甲羅はないが、亀にもスッポンのようにフニャフニャの甲羅しか持たないものもいるので、水面からほんの一瞬すがたを見せるイルカやアザラシの姿からスッポンのばけものを想像する可能性はないだろうか?
 もしそうだとしたら、魚の項目で扱ったホウ魚もイルカや鰭脚の仲間かもしれない。
ヨウスコウカワイルカ
ヨウスコウカワイルカ
 長江(揚子江)中下流に棲息する淡水イルカ。海のイルカとちがって、くちばしが長細いのが特徴。泥で濁った大河の水中で暮らすためか、目が小さく退化して、ほとんど見えていないようだ。超音波を発し、その反射で餌を探す。
 1980年ころから激減、現在の生息数は100頭以下と言われている。
 また、インド・パキスタンにはガンジスカワイルカという淡水イルカが棲息している。
 ところで、三本足の亀といえば、中国の神話ではちょっと重要な意味を持っている。天帝の命令を待たずに大洪水をふせいだため処罰された鯀という神が、三本足の亀になったという伝説があるのだ。鯀についてはギリシア神話のプロメテウスのような英雄とする説と、洪水をおさめようとして失敗して亀になったという説と二説あるが、どちらにしても三本足の亀といえば鯀との関係を無視できない。
 なお洪水伝説については別項で詳しく取り上げたい(と思っているんだけど手つかず)。

 

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