挿し絵はありません コツコツ
朏朏

 獣がいる、そのかたちは狸のようで白い尾、鬣(たてがみ)をもつ、名は朏朏。これを飼うと憂さをはらすのによい。(中山経一の巻)--276
 

文は『山海経』より


 
 
 と同じくたてがみのある狸である。しかも、飼うと憂さを晴らすのによいというのだから愛玩動物だろうと思う。

 そう考えてさがしてみると、ペキニーズ、シーズー、ラサアプソ、チベタンスパニエル……中国やチベットには、たてがみつきの狸みたいな犬種が多い。これは偶然の結果ではなく、こんな毛並みの犬が好まれたからだ。

 たてがみのある動物といえば、洋の東西を問わずライオンを思い浮かべる人が多い。百獣の王という言葉があるが、ライオンは王者の象徴として世界中に知られている。獰猛な肉食動物であることや、1頭のオスが数頭の雌ライオンをはべらせて暮らしていること、そして、あの見事なたてがみ……どれをとっても王者にふさわしい風格だ。

チベタンスパニエルチベタンスパニエル
 チベット原産の小型犬。ラサアプソと同じく寺院で飼われていたが門外不出の犬ではなく、一緒に生まれた兄弟の中でいちばんの美形だけが寺院に献上された。
 また、ライオンは力の強さだけでなく、思想の正しさや雄弁さの象徴ともされた。ある言い伝えによれば、仏教の開祖であるシャカは常に犬をつれており、シャカに危険が迫ると犬たちはライオンに姿を変えて敵と戦ったという。シャカが雄弁に説法をすることをライオンがほえるのにたとえて獅子吼といったりもする。
 
 このように立派なイメージの生き物なら、飼ってみたいと考える人が必ずいるはずだ。エジプトやインドの王様なら実際に飼い慣らしたこともあっただろうが、ライオンの棲まない地方では代わりになる生き物を珍重なければならなかった。
 チベットや中国のたてがみ犬は、ライオンへの憧れやおそれから人が作り上げた夢の形なのかもしれない。
シーサ沖縄のシーサ(獅子)
 たてがみがあってライオンのようでもあるが、豊かな房毛になった尾はどちらかというとペキニーズなどの獅子犬に似ている。
 ところで、沖縄では屋根の上に魔除けとしてシーサ(獅子)の像をのせる。沖縄で獅子とされるこの生き物の像は、神道の神社の前にあるとき狛犬と呼ばれている。どちらも元々のモデルはライオンだろうが、中国あたりで犬のイメージが混ざっているにちがいない。

 


 

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